半導体集積回路  第1講



1 集積回路の歴史

1.1 はじめてのコンピュータ



 世界最初のコンピュータはアメリカのペンシルバニア大学で、J・プレスパー・エッカートとジョン・W・モークリーによって、1946年に誕生しました(*1)。ENIACと名づけられ、1万8千本もの真空管を用いた超巨大コンピュータです。写真を見たことのある人も多いと思います。重さは30トン、消費電力は174KWというすさまじいものです。人間よりは計算スピードは速いですが、それでも現在のコンピュータと比べたら何百万分の1以下というがらくたものです。おまけに、すぐに故障しました。これは、真空管内に用いる材料が高温に熱せられてすぐに焼き切れてしまったためです。

*1:
実際には、イギリスの数学者マックス・ニューマンにより初めてのコンピュータの設計図が描かれ、1943年にトミー・フラワーズによって1,500個の真空管が使われたコロッサスというコンピュータが作られている。しかし、コロッサスは専らイギリスの暗号解読用に使用されたため、第二次世界大戦後、封印され設計図も失われてしまった。

1.2 トランジスタ、ICの発明

 でも、その翌年、半導体を用いた小型で半永久的に使用できる素子、トランジスタがアメリカ、ベル研究所にて Shockley らによって発明されました。エジソンの電灯やライト兄弟の飛行機の発明に並ぶとても重要な発明です。そのわりにはなぜか知られていませんが。それから約10年たち、トランジスタを用いたはじめての集積回路が開発されました。英語でIC (Integrated Circuits) と呼ばれているものです。集積というのですから、トランジスタをいくつも組み合わせて何らかの機能を持たせたものです。今でも電子機器を製造する際の重要な部品ですし、秋葉原とかにたくさん点在する電子部品店で簡単に手に入ります。暇があったらビデオデッキの上ぶたをとってみるとICがたくさん見えるでしょう。
 黒色の長方形の物体に金属の足がたくさんついたゲジゲジみたいなやつです。単純な機能を持ったものから複雑なものまで種類はいろいろあります。単純なのは例えば、0が入力されたら1を出力するとか、二つの信号が両方とも同じだったら1を出力するなどです。ICは使われているトランジスタ数は多くはなく、だいたい1,000個未満です。ICの発明後、トランジスタの大きさはどんどん小さくなり集積化が進みました。つまり、同じ面積の場所によりたくさんのトランジスタを置くことができるようになりました。

1.3 LSI (Large Scale Integration)


 そして、1970年にはインテルより1KbitのDRAM、そして翌年には世界初のマイクロプロセッサIntel4004が開発されました。Intel4004には2,300個のトランジスタを使った740KHz動作のプロセッサです(左図)。だいたいトランジスタが1,000個以上のせられた集積回路はLSI (Large Scale Integration)と呼ばれています。日本語では大規模集積回路です。LSI時代の幕開けというわけです。今のプロセッサが数千万個のトランジスタを積み、数GHz動作をすることを考えると、まだまだお粗末ですが、これ以降、集積回路の発展はさらに加速し、性能はものすごい勢いで上がっていきます。半導体業界ではよく知られた”ムーアの法則”というものがあります。インテル創設者のGordon Moore氏が考え出した法則で、トランジスタの集積度は3年で4倍になるというものです。、過去30年間、この法則のとおり、確実に集積が進みました。つまり、30年で集積されるトランジスタ数は約100万倍になったというわけです。だからといって性能(計算スピード)が100万倍になったわけじゃありませんが、30年前に比べて数千倍以上にはなっているはずです。

1.4 集積回路の今後

 現在では集積化がとてもすすみ、大きさが非常に小さくなりました。今、話題のICカードの金色っぽい部分も集積回路です。近い将来には商品のタグにも集積回路が使われるようになるかもしれません。
 今まで順調に小さくなってきたのですが、最近は壁にぶちあたりはじめています。あまりにも小さくなってきて原子の大きさに近づいてくると、物理上いろいろな問題が起こってきます。そんなに小さくしてどうするんだとも思いますが、そうしないと経済活動が成り立たないからしょうがないのでしょうね。大学や企業で日夜、研究が続けられています。今までのトランジスタではなくまったく異なる物の研究もあります。例えば、1つ1つの原子を利用してメモリを作ろうとかいうものです。こういうのが実現すると私の研究ももはやそれまでということになるのですが、まだまだ先のことだと思います。あと10年は今のまま集積化が進んでいくでしょう。


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