半導体集積回路 第0講
0 序論
0.1 はじめに
私は電子工学専攻の学生です。初めての人にお会いすると、当然、「何を研究しているのですか」と聞かれますが、答えにいつも困るんですよね。「LSIの研究です」なんて言おうものなら「L・S・I?何それ?」と返されるのがおちです。少しゆずって、「半導体集積回路の研究です」というと、「ああ、半導体ね」でとりあえずかたづけられます。うん、確かに半導体だけど、いったい何を相手にイメージされたのか少々不安ですね。
よくTVで目にする工場の中の様子かもしれない。変なでかい機械が薄っぺらい板の上で何かしてる、そんなイメージかもしれないし。それとも、今の日本の不況を救う救世主、日本の誇れる技術だ、がんばってくれーという感じかもしれない。うーん、確かに間違ってはいないけれども、なんかみんな他人ごとなんですよね。どこか遠い世界の人が白衣を着てとてつもなく難しいことをやっていると思っているような。私は文科系だから関係ありませーんってか。
でもでも、半導体集積回路(チップ)は現代人の日常生活と切っても切り離せないものなのです。あなたの使っているパソコンにはいろいろなチップがたくさん入っているし、あなたの持っている携帯電話にもチップがたくさん使われています。その他、銀行のATMやお店のレジ、飛行機や自動車の制御部などに使われていますし、今では、冷蔵庫や炊飯器などの家電にも使われています。あなたの身のまわりはチップだらけなんです。
それなのに知らない人が多いのは残念。もしかしたら小中学校の授業でまったく触れないのが原因かも。理科の授業で振り子の運動とか、太陽の角度、生物のしくみ、鉄の酸化、岩石の種類といった理学的な範囲は勉強するけれども、半導体やロボット、機械、建築、航空機といった工学的な範囲はまったく触れないものね。まあ、現在の指導要領の大元はトランジスタが発明されたころにできたのだからしょうがないか。とはいうが、技術立国日本を掲げる国の教育としてはあまりにもおそまつすぎ?おまけに理科の時間も減るらしいし。
もう、政府なんかにまかせていないで、自分で勉強しよう。今から考えると小学校の自由研究で最先端技術を調査するなんてとても魅力的なテーマだなー。今ならインターネットを通してほとんどあらゆる情報が手に入るんだからね。10年前にインターネットが普及していたら、もっとましな自由研究ができただろうなとふと思ってしまいました。
というわけで、大人の方も含めて、半導体集積回路のことについて簡単に見てみませんか。
0.2 半導体についての補足
半導体とはいっても現在ではその研究範囲は非常に多岐にわたります。半導体とはその名のとおり、導体(電気をよく通すもの、一般的な金属)と絶縁体(電気を通しにくいもの、木材、ガラスなど)の中間にあたる媒体で、ある条件を与えることにより電気を通したり通さなかったりするもののことです。媒体中を流れる電流の大きさを簡単に制御することができるので、これを組み合わせることで複雑な機能を実現できるわけです。
私が研究しているのは、たくさんの半導体を組み合わせて複雑な演算を行わせる半導体集積回路という分野です。マイクロプロセッサやメモリなどがそれにあたります。集積回路の研究の中でも、半導体そのものを扱う、つまり、何を材料として使うかとか、どんな形状にするかとかを議論する研究(プロセス)と、半導体の組み合わせ方や制御方法の研究(デザイン)があります。建築にたとえると、プロセスが材木屋さんと金物屋さんなら、デザインは大工さんというところでしょうか。私が行っているのはデザインで半導体そのものを研究してはいません。半導体は集積回路以外にナノデバイスや光技術でも用いられています。
プロセスとデザインは互いに密接な関係をもちながら技術革新が成されているわけですが、この講義では、デザインについてのみお話します。半導体デバイスそのものは非常に範囲が広いですし、私もあまりよくわかっていないからです。
0.3 超基本用語
- Hz:
プロセッサの動作周波数の欄に333MHzとか、1.5GHzとか書かれていますね。Hzは1秒間に何回同じ動作を繰り返すかをあらわす単位です。例えば、私たちの脈でしたら一分間に約60〜120回鼓動するので、60で割って、1〜2Hzといったところでしょうか。1GHzのプロセッサは1秒間に10億回、同じ動作を繰り返しているということです。すごい働きものですね。
- bit, B (Byte):
コンピュータではデータはすべて0と1のディジタルデータとして蓄えられます。0,
1の2通りだけの情報の量をbitと呼びます。00, 01, 10, 11の4通りなら2bitです。000,
001, ... , 111の8通りなら3bit。256通りでは8bitでこれを1B (Byte)
と呼びます。(1byte = 8bit.)
256通りでは、数字やアルファベットを区別できますが、漢字の区別はできません。そこで、漢字は2Byte使います。2Byteは日本語1文字分と考えればよいでしょう。Kは約1000、Mは約100万、Gは約10億をあらわすので、例えば、128MBのDRAMは日本語約6千万文字分の容量です。
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