1. 資産・負債・資本・費用・収益
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さて資産・負債・資本の三つがわかったとして、次に収益・費用が登場します。テキストには次のようなことが書かれています。
収益:
営業活動によって企業の資本の増加をもたらす原因の総称。
受取利息、受取手数料、商品販売益など
費用:
営業活動によって企業の資本の減少をもたらす原因の総称。
支払利息、支払手数料、給料など
さらに、取引の8要素も出てきます。
資産の増加、資産の減少、負債の増加、負債の減少、資本の増加、資本の減少、
費用の発生、収益の発生。
これらは、それぞれ記入するべき側が決まっています。もし、資産が増加したら借方に、資産が減少したら貸方に記入します。
| 借方 |
|
貸方 |
| ___ |
|
___ |
| 資産+ |
| |
資産− |
| 負債− |
| |
負債+ |
| 資本− |
| |
資本+ |
| 費用 |
| |
収益 |
借方に記入する取引と、貸方に記入する取引を、組み合わせて、仕訳帳の借方と貸方に記入していくわけです。(組み合わせは後で解説します。)
仕訳(三分法)
| (借) |
仕入(費用の発生) |
1,000 |
(貸) |
現金(資産の減少) |
1,000 |
: |
4/1 仕入発生、現金減少 |
| (借) |
現金(資産の増加) |
2,000 |
(貸) |
売上(収益の発生) |
2,000 |
: |
4/2 売上発生、現金増加 |
しかし、どれを組み合わせればいいのかわからないことがよくあります。例えば次の例です。
例)
道里書店は猿猫実業より書籍「猿でも受かる!簿記究極の技」
\100,000を仕入れ、費用は約束手形を振り出して支払った。
| (借) |
仕入 |
100,000 |
(貸) |
支払手形 |
100,000 |
ここでは、支払手形は負債の増加として貸方に仕訳されていますが、「支払」に惑わされて間違って費用の発生として借方に仕訳してしまうことがあると思います。そして、「費用が発生して預金が減るから、貸方は資産の減少だな」と思って問題に書いていない当座預金を勝手に減少させたりして、もうめちゃくちゃになります。(私の失敗例)。
| × |
(借) |
支払手形 |
100,000 |
(貸) |
当座預金 |
100,000 |
本当は仕入が費用の発生でこれを借方に記入しなければいけません。「支払」に惑わされなければ正確に仕訳できそうな気もしますが、それ以外に間違えやすい大きな理由があると思います。
費用の発生と負債の増加の様子を図1.2に書いてみました。総金額が増えています。普通、費用がかかればお金は減ると思うのは当然なのに、図では明らかに増えています。これはいったいどうしたことでしょうか。ここで、混乱する人が多いのではないかと思います。私はかなり混乱しました。
図1.2 支払手形振出による収益の発生と負債の増加
混乱の原因は、この資産・負債・資本の数値の取り扱い方およびその図の書き方にあります。負債は実はマイナス的な性質を持つにもかかわらず、プラス的な性質も持つ資本と等価的に表されているため、裏で起こっている資本の減少が見えないのです。ちょっとややこしいので、もっとわかりやすく説明します。
もう一度、収益と費用の定義を思い出してください。
収益:
営業活動によって企業の資本の増加をもたらす原因の総称。
受取利息、受取手数料、商品販売益など
費用:
営業活動によって企業の資本の減少をもたらす原因の総称。
支払利息、支払手数料、給料など
商品を仕入れて(費用が発生して)負債が増加した(約束手形を振出した)場合には、資産には変化がありません(現金も当座預金も変化していない)。資産が同じで負債が増加したからその分資本が減少することになります。、ただし、資本の減少は決算時にならないとわかりにくいです(図1.3)。

図1.3 費用の発生がもたらす資本の減少
現在の簿記における数値はすべて正の数(0以上の数)で表され、負債も資本もその増加を貸方に同じように記入するからです。残高や合計残高の計算でも負債・資本ともすべて合計しています。決算時に負債と資本に区別することで、負債と資本のそれぞれの状態が見えてきます。
| ・負債の増加の仕訳 |
(借) |
現金 |
100,000 |
(貸) |
借入金 |
100,000 |
| ・資本の増加の仕訳 |
(借) |
現金 |
100,000 |
(貸) |
資本金 |
100,000 |
現在の簿記の方法では、期中の仕訳だけでは何がどう変化しているのか見えにくいですが、あえて見えにくくすることで計算や試算表の作成を簡単にし、実務に便利なようにしていると思われます。もし、マイナスの値も使用しなければいけないとしたら大変ですから。
しかし、簿記の学習者にとっては理解しづらいのは困ったことです。そこで、資産・負債・資本を図1.3のような表ではなく、ベクトルを使って次のページで考えてみます。