2. 三角関数 − 景気変動の波



 バブル崩壊以来、日本の景気は思わしくなく、いろいろなメディアや研究所がその理由をあれこれと言っています。役立たずの政治家が悪いとか、企業のゆるま湯体質が悪いとか、郵便局に眠っている100兆円資産が問題だとか。
 この辺はまともな意見ですが、ひどいのになると、近頃の若者が通信にお金を使いすぎるのが問題だとか、安売り店の進出が問題だとか、自分を基準にしか考えていないような意見もあります。

 しかし、過去の景気変動を見てみると、誰かに問題があるから景気が悪いというよりもむしろ、景気変動には波があり、今はちょうど波の谷にいると考えたほうがいい気がします。

 この世界には非常に多くの波が存在します。海の波や、潮の満ちひきといった目に見えるものもそうですが、動物の個体数の変化、電子の運動、人間の体調、気候の変動、年間の売上の変化、インターネットへのアクセス数の変化など、身の周りの多くの要素が波の性質を持っています。

 景気循環(変動)も波で表されることが経済学者により発見されていて、次のような波があります。

名称 周期 概要と主な要因
キチンの波 40ヶ月前後 最短期の波で、在庫循環ともよばれます。アメリカの経済学者キチン(J. Kitchin)が発見しました。在庫の一時的過剰によって景気上昇が一時中断されるという形で起こります。
ジュグラーの波 7-10年 中期循環ともよばれます。フランスの経済学者ジュグラー(C. Juglar)が発見しました。設備投資の過不足の調整過程から起こります。設備の平均耐用年数が約10年であることによります。
コンドラチェフの波 40-50年 長期的な変動で、ソ連の経済学者コンドラチェフ(N.D. Kondratief)が発見しました。技術革新や大規模な開発で起こります。産業革命以来3つの波が指摘されています。第1期は1780-1850年頃(産業革命)、第2期は1850−1895頃(蒸気・鉄鋼)、第3期は1895-1945頃(化学・自動車)。現在は第4期(自動車・半導体)の終わりに位置しています。


 多くの波はたいてい正弦波で近似され、三角関数sinまたはcosの式で表されます。正弦波とは図2.1左の図のような波です。図2.1の場合、周期は2π、振幅は1です(π=約6.28、角度でいえばπ=180度、つまり360度で1周して元に戻る。)
 cos, sin の値は図2.1右の図のように定義されています。物理などで、斜辺向きの物理量を、垂直方向と水平方向の成分にわけるために、よく使われます。


図2.1 正弦波

 景気変動も正弦波で近似されます。そこで、上記の三つの波を正弦波の式で表して、1750−2050年について図2.2に値をプロットしてみました。キチンの波、ジュグラーの波、コンドラチェフの波の周期をそれぞれ、3年、10年、50年と設定し、これらの相対的な大きさを1:2:3としました。相対的な大きさの設定には根拠はなく、グラフがそれらしく見えるような値に調整しただけです。1970年がコンドラチェフの波のピーク、1995年が波の谷になるようにしています。
    3*sin(6.28*((x-8)/50))+2*sin(6.28*((x-8)/10))+sin(6.28*((x-8)/3))+(x-1750)*0.02 (x:西暦)


図2.2 3世紀の景気変動近似

 実際の景気変動がこの図のとおりになっているわけではありませんが、長期的にみると、上がったり下がったりが小さなレベル、大きなレベルで繰り返されていると経済学者はいっています。現在は長期変動の谷からちょっと右側に位置するとされています。

 正弦波による景気変動の近似はあくまでも近似であり必ずしも正しいものとは言えないと思います。私は経済学には疎いので細かいことはわかりませんが、過去の景気が波のように、山と谷を繰り返してきたのは事実です。そうすると、今後も、大事件(世界大戦、宇宙人による侵略、惑星衝突など)がおこらないかぎり、正弦波のような変動を繰り返していくと予想できるのではないでしょうか。

 そうすると、景気が悪いのを誰かのせいにしてぶつぶつ文句をいっているよりも、景気がよくなるのをじっと待ってのんびり構える方がいいと思います。ITやバイオ技術が第5期の長期変動を起こすブレークスルー技術となるかはわかりませんが、おそらく2020年頃には世界的に好調な時期がくると思います。
 ただし、日本がその恩恵を受けるかどうかは不明です。中国やインドがその人口の力で、日本の経済力を上回るかもしれません。いや、その前に日本の国家財政は破綻して経済は大混乱におちいっているかもしれません。

 個人的な私見ですが、私たちは経済を常に成長させるために生まれてきたわけではないと思います。ここで人生の目的については議論しませんが、幸福に生きることが人生の喜びであると思います。約50億年という地球の長い歴史から比べたら、わずか80年というちっぽけな人生を無駄にしないためにも、景気変動に一喜一憂するのはやめて、自分の人生を自ら豊かにすることを考えたほうがいいと思います。

 私たちの心の波は私たち自身で決めましょう。
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